地中熱利用促進協会
SiteMapお問い合わせHOME
HOME>技術資料>講演要旨等>H17.12シンポジウム 研究開発の現場から
協会概要協会活動報告地中熱紹介技術資料トピックスリンク
技術資料││発行図書関連図書技術解説Q&A関連論文講演要旨見学レポ関連報道
講演要旨等
H17.12シンポジウム
地中熱をご存じですか
地中熱利用HPとは
研究開発の現場から
H18.5総会特別講演会
住宅用GeoHPシステム
地中熱利用HPとは
地下の恒温生を利用し
 た地中熱利用
H19.10シンポジウム
H19.12シンポジウム

・H17.12シンポジウム 研究開発の現場から

東北大学 工学研究科
新堀雄一(日本地熱学会 地中熱利用技術専門部会)

1.はじめに(地中熱と地熱)
 従来,地熱というと地熱発電のイメージが大きい.地熱発電は,概ね地下1〜2 kmの熱水を汲み上げ,地上において蒸気としてタービンを回すことにより発電するシステムが一般的である.現在,多様な発電形態が検討されており,他の自然エネルギーに比較して安定した出力が得られるため,ベース電源として利用されることが多い.このような熱水の利用には,詳細な調査により,地下に水×流路×熱の3つの要素が揃っていることを確認することが重要である.一方,近年,地熱の利用方法のひとつとして,地表から百m程度の地下における熱のみを利用することが着目されている.日本地熱学会では,それを従来の地熱と区別し,地中熱利用と呼んでいる.その違いは,地中熱はどこにでも我々に足下に存在する点にある.
 現在,欧米を中心に多様な形態の地中熱を利用することが試みられ,実際に利用されている.たとえば,最近ではスイスチューリッヒの空港施設への熱供給が地中熱を利用している.地中熱の温度は十数℃であり,多様な熱供給には,ヒートポンプの利用が必要になる.すなわち,地中の熱と電気を用いて,必要な温度の熱を地上に供給するシステムである.したがって,小職の訪問したオーストラリアザルツブルグ近郊の地中熱利用施設では,そのシステムの説明を電力会社の方が行っていた.つまり,電気を利用するお客様を増やす側面と,全て電気に頼るのではなく,自然にありかつ再生可能な地中の熱を有効に使って,電気の利用を節約するといった側面を合わせ持つ.別な視点から言えば,化石燃料利用の削減になり,暖房,冷房,給湯などの熱供給のコスト削減,さらに,地上施設の断熱性の向上に伴う電力負荷の平準化,都市規模ではヒートアイランド化の低減などが期待されている

2.日本地熱学会地中熱利用専門部会(最近の活動)
 日本地熱学会では,平成13年12月に地中熱利用技術専門部会が設置され,平成14年には当時部会長の松永 烈氏(産業技術総合研究所)が中心になり,地中熱利用特集号が本学会誌において企画されている.そこでは,本技術を長年,研究,指導されてきた北海道大学の落藤 澄先生に現状と課題について総説を頂き,当該技術の発展の経緯について,国内外の状況を含め詳しく記述していただいている.一方,地中熱技術の普及促進に向けて発足された「地中熱利用促進懇談会(現NPO法人地中熱利用促進協会)」(平成13年発足)やヒートポンプ・蓄熱センターのもとに「地下熱利用とヒートポンプシステム研究会」(平成14年発足)があり,研究者・技術者の情報交換も進んでいる.
 日本地熱学会誌では,ここ数年地中熱に関係する論文が多くなってきているが,研究論文は,オリジナルな点を強調して書く必要があり,必ずしも当該のシステム全体像は見えない.そこで,当専門部会の幹事会では,システムの全体像とその多様な適用法についての最新技術を整理し,それを一つの基盤として,さらに多くの方が本技術に携わっていただければと考えた.その実現のために,編集委員会(委員長 九大 糸井龍一先生)との連携により,講座の連載を平成17年10月より開始した.約1年間にヒートポンプの仕組み,地上施設設計の留意点,地下熱特性の測定手法,最近の関連技術の動向などをまとめる.執筆者は,これまで本学会において当該技術について先駆的な役割を果たされている研究者・技術者,空気調和・衛生工学会等において活躍されている方々である.システムの構築には,学際的な知見が重要であり,それらを体系化するためには,言葉の統一性などを含め執筆者のみならず編集幹事の方々にも大変ご尽力を頂いている.講座を今後一般向けの図書に発展させる基礎としたいと考えている.

3.研究紹介(地下水流を考慮した地中熱利用ヒートポンプシステムの設計)

3−1 国内での共同研究

 これまで演者は,多くの方々のご協力を得て,いくつかの企業の方々との共同研究を進めている.そこでは,中部電力大町営業所や星野リゾートの地中熱利用ヒートポンプシステムの導入など,地下水の流れの大きい,あるいは温泉地での地下からの本システムの設計手法を如何に整理するかについて検討をしている.砂礫層の多い我が国では,安定な地盤である欧米に比較して掘削費が高く,技術的な面からのコスト削減が期待される一方で限界もある.その意味で,分散エネルギーである地中熱を有効に利用するためには,我が国での特徴である地下水による熱移動を考慮した,より地域に適応した設計支援を行う必要がある.地下水の熱輸送とその抽熱との関係を明らかにできれば,結果的に抽熱に必要な井戸の長さを短縮する可能性を持つ.このことはそのまま,本システムの導入コストを削減することにつながる.

3−2 比較的地下水流速の大きい場合(中部電力大町営業所での検討)
 平成13年6月より中部電力株式会社大町営業所(長野県大町市大町)において100 mの井戸を掘削し,いわゆるダブルUチューブを用いた当該システムの導入により,建物3階部分の事務所,保健室,ロッカー室(床面積210m2)の空調用熱源に実際に利用するとともに,熱負荷試験など基礎的な実験を行っている.当実証サイトでは掘削により,地下30m以深に地下水が存在することが確認されている.その水位は季節によって若干変動するものの,井戸100mの7割の領域に地下水が存在することとなる.その流速は,近傍に掘削した観測井の温度変化より,10-4m/s程度にあると推算されている.
 地中熱利用ヒートポンプシステムの設計と地下水流動との関係についての整理を行うことは本システムの我が国における普及の一助になる.そこで,中部電力大町営業所では,平成14年2月に強制熱負荷実験を行った[1].そこでは,坑井内のUチューブ外面に熱電対を固定し,深度方向10m毎に温度のモニタリングを行っている.当サイトは現在のところ,Uチューブのグラウチング(ケーシング内のUチューブの周囲をベントナイト等で埋め込むこと)を行っていないために,Uチューブの周囲にはケーシング内でも地下水が存在している.したがって,ケーシング内,Uチューブ周囲の地下水は抽熱に対していわば熱的な緩衝材の役割を担い,強制熱負荷試験においては,この緩衝帯の温度もまた非定常状態にあると考える.実験では,事務所の窓を開放にして強制的に暖房負荷を作り,ヒートポンプの限界まで抽熱を行っている.熱負荷試験は7時間実施され,その後,負荷を外している.その結果,定常状態では,209 W/mの抽熱量を示した.
 これらの一連のデータを解析したところ,地下水が地下30mから100mの間を10-4m/s程度の地下水が流れていると想定すると,実験値と計算による予測値がよく一致する.このモデルは,地下水の流動場を2次元により表し,U字管などの熱交換器による抽熱を考慮したもので簡便なものである.演者は,このモデルを用いて,地下水流動を考慮して必要な熱交換器長さを見積もる一手法を提案している.また,地下水による熱移動と採熱との定常状態における熱的なバランスを考えると,地下水流速がダルシー流速において少なくとも10-5 m/s以上の場合,設計上のメリットが明らかにあることを示している.

3−3 地下水流速の比較的小さい場合(10-5 m/s以下の場合)
 前述のように井戸を用いた地中熱利用ヒートポンプシステム(以下, GeoHPと呼称)の設計においては,地下水流動を考慮することにより熱交換器の長さを節約することができる.しかし,中部電力大町営業所サイトにおける地下水流速は一般的には大きい値であり,この値以下の場所が多く存在する.その場合,それら地下水流動を設計にいかに反映するかを改めて整理する必要がある.そこで,ここでは,10-5 m/s以下の地下水流速を比較的遅い地下水流動とし,その場合の坑井を用いたGeoHPの設計について考察を行った[2].
 たとえば,地下水の流速が10-5 m/s (ダルシー流速)の場合, 地下水の移動距離は1ヶ月に約25 mになる.これは,熱伝導のみを考えた場合の地下における温度変化領域(採熱管から半径にして5 m程度)を超えている.また,地下水流速が10-6 m/sの場合,2.5m程度の移動であるが,冬季と夏季のバランスを考えると1年で初期の温度状態に戻ることになる.通常,熱伝導のみを地下の熱移動と仮定する場合は,そのシステムの稼動年数をパラメータとし,30年から50年にわたって稼動できる採熱管の長さを算定するが,地下水が10-6 m/s程度あれば必要となる採熱管の長さは1年間の熱負荷をまかなうようすればいいことになる.そこで,設計支援プログラム(EED) [3]を利用して,必要採熱管長さに及ぼす設計年数,有効熱伝導率およびグラウト材の種類の影響を検討した.
 一例として仙台市の平均的な戸建住宅の熱負荷をモデルケースとし,年間暖房・給湯熱負荷,年間冷房負荷,月別負荷構成比,月別ピーク負荷,Uチューブやグラウト材の熱物性値,ヒートポンプのSPF(季節成績係数,冬季3.5,夏季2.0),地層の熱伝導率,システムの設計(利用)年数,循環流体の凝固点などの入力パラータを整理した[4].なお,本研究では,仮に井戸内U-チューブ周囲を地下水とし,その地下水の局所対流が熱抵抗を低下させる場合について,その極限のケースとし同軸管による採熱を考える.



 図1は計算結果の一例である[2].ここでは,ダブルU字管を用いて,グラウト材としてセメントを用いた場合における必要な井戸深度と設計年数との関係を示している.また,地下水による有効熱伝導率λの幅として1.5 W/(m ・K)から2.1 W/(m ・K)と仮定した.図から分かるように,設計年数30年,λ=1.5 W/(m ・K)の場合と,設計年数1年, λ=2.1 W/(m ・K)の場合,両者の必要井戸の長さは,ピーク時の熱負荷(ピークロード)をも考慮した場合において17 mの差があり,ベースロードのみをまかなう場合15 mの差となる.すなわち,ベースロードのみ方が井戸全体の深さを相対的に大きく節約でき,地下水の存在による優位性を設計に活かし得る.以上をまとめると次のようになる.
(1)10-5 m/sより小さい地下水流速の当該システム設計への反映について, 10-6 m/sにおいても,2ヶ月程度の未利用期間を考慮するとその優位性がある.
(2)EEDを用いて設計年数を1年として必要井戸長さを計算した結果,30年に比較して,1割から3割程度まで井戸の長さを節約できる.
(3)ベースロードのみ方が地下水の存在による優位性を相対的に設計に活かせる.

4.まとめ
 足下の熱(エネルギー)を有効に使う方法は,導入サイトの特徴や導入目的によって多様性があり,地中熱利用ヒートポンプシステムの中でも,様々なシステムの提案が今後継続的になされていくと考える.本講演では,その一例として,地下水や温泉を汲み上げることなく熱のみを利用する方法があることを示している.
 今後,当該システムが我が国に浸透していくためには,学校等公共施設へのさらなる導入,ヒートアイランド現象の軽減技術として都市部への積極的な導入などが大きく期待される.また,学会の役割の一つに,地中熱利用ヒートポンプシステムの基軸となる設計指針と関連手法を整理することがある.当該システムの工夫が続く中で,いわば標準化をはかることは簡単ではないが,内外の協力を得ながら確実に進める必要がある.今後とも,当システムが我が国においても広く利用されることに非力ながら力を注ぎ,教育・研究を進めていきたいと考えている.

参考文献
[1] Niibori, et al., Proc. of World Geothermal Congress 2005, Paper No. 1422, p.1-6.
[2] 新堀,中込 (2005) 日本地熱学会学術講演会(雲仙大会)講演要旨集, No. A35.
[3] Sanner, B., et al. (1999) Proc. of the 1999 Workshops International Geothermal Days, 175-181.
[4] 新堀,井上, 新妻 (2001) エネルギー ・資源学会, 第20回研究発表会講演論文集, 323-328.

 

 

 

 

 

 

 

 

All right reserved Geo-Heat Promotion Association of Japan